熱帯雨林の保護が盛り込まれているこの条約に対して、発展途上国から、熱帯雨林の利用制限は内政干渉だとの反対意見が出ました。
この反対の見返りとして、次のような条文が盛り込まれました。
途上国の森林を利用した場合、「ペニシリンのような新しい化学製品が発明されたときには、その利益を途上国にも分配する「熱帯雨林の保全の費用を、利用する国が負担すること」という内容の条文でした。
当時のブッシュ政権は、この条文が「知的所有権保護」の障害になり、また、財政圧迫が必至だとして、この条約に調印しなかったのです。
だが、クリントン大統領は、前政権の方針を転換することを決断し、1993年の4月22日のアース.デー(地球の日)に演説して、「生物多様性保護条約」に調印することを表明しました。
地球環境に対して、今までのブッシュ政権とは異なるクリントン政権の政策は、二酸化炭素の排出に対しても反映され、「気候変動枠組み条約」の交渉でも積極的態度で臨むので、この条約の実行が大きく前進するものと期待されています。
今後行なわれる二酸化炭素の排出規制の外交交渉は、ゴア副大統領や赤尾大使が心配しているように、難航するものと予想されます。
交渉会議では、厳しい排出規制から逃れるために権謀術数をめぐらす国も出てくるものと考えられ、その際、温暖化の科学的予測の不確かさが、逃げ道の根拠として取り上げられる懸念が大きいのです。
また、仮に、排出抑制の条約が国際的にまとまり調印されたとしても、議会での批准が必要ですから、その議会討論でも、予測の不確かさが議論の焦点となることは確実です。
以下の章では、地球温暖化の科学的根拠やその脅威を述べることにします。
二酸化炭素の増加が地球を温暖化するのは、地球の熱放出を緩和する作用が強化されるからです。
「大気の温室効果」と呼ばれるこの作用は、すでに9世紀から知られていましたが、工業活動による二酸化炭素の増加が地球温暖化を引き起こす、との考えが定着するまでには、粁余曲折がありました。
大正末期から昭和初期にかけて、『風の又3郎』や『銀河鉄道の夜』などの童話を書いた宮沢賢治は、昭和7年に童話『グスコーブドリの伝記』を発表しました。
彼は、その中で二酸化炭素による地球温暖化を取り上げています。
この童話の主人公のブドリは、子供のころからしばしば冷夏による凶作に遭遇してきました。
ある年の5月に日間もみぞれが降ったりして、冷夏の気配が濃くなり、生きた心地がしませんでした。
ブドリは、クーポー大博士に尋ねました。
「先生、気層のなかの炭酸ガスがふえて来れば暖かくなるのですか。
」二酸化炭素の増加にともなう地球温暖化は、古くて新しい問題です。
大気の温室効果を、今から百5年以上前に初めて指摘したのは、フランスのジャン.バプチスト.フーリエでした。
地球温暖化説の幕開け「それはなるだろう。
地球ができてからいままでの気温は、たいてい空気中の炭酸ガスの量できまっていたと言われるくらいだからね。
」(岩波文庫『童話集風の又3郎他8篇』より)と答えました。
童話作家が今から約6年前の作品に、二酸化炭素による温暖化を取り上げたことは驚きであります。
宮沢賢治がしばしば冷夏による凶作に見舞われてきた岩手県の出身で、盛岡高等農林学校の卒業生であることを思うと、それほど、不思議ではありません。
彼は、盛岡高農在学中に「農業気象」を勉強し、特に、冷夏などの異常気象に大きな関心を持っていたのでしょう。
二酸化炭素による温暖化作用に関する9世紀からの研究を知っていたと想像されます。
二酸化炭素による温暖化作用は、半世紀以上も前に童話作家がすでに取り上げていたからといって、その内容は単純に理解できるものではありません。
宮沢賢治の時代から6年以上の年月が経過した現在、二酸化炭素による温暖化作用に関する科学が進歩して、多くのことが分かってきましたが、それとともに、多くの新しい問題が浮かび上がってきています。
9世紀の数学者であった彼の名は、現在でも応用数学の分野でしばしば用いられている「フーリエ級数」の名称に残っています。
フーリエは1827年に、「地球大気は、太陽からの日射を透過しているが、赤外線が地面から上空へ出ていくのを妨げている。
この作用が温室のガラスと同じように保温するように影響している」と気づいたのです。
大気の温室効果を最初に指摘したものです。
それから21年以上経過した1863年に、英国の王立研究所の所長の物理学者ジョン.ティンダルは、「大気中の水蒸気や二酸化炭素が気候に著しく影響している」ことを指摘しました。
地球の気候が、日の照っている昼間でもしゃく熱地獄のような高温にならずに適度の暖かさであり、また日の沈んだ夜間に氷の世界のような極度の低温にならないのは、大気中の水蒸気や二酸化炭素が温室効果を及ぼしているからだと述べました。
現在、大気のない月面では、昼間の温度が約150℃で夜の温度が氷点下約100℃であることが分かっていますので、ティンダルの意見は正しかったといえます。
大気中の二酸化炭素が増えると地球が温暖化することを、9世紀末に初めて示したのはスゥェーデンのスバンテ.アゥグスト.アレニュースです。
彼は、電気分解に関する研究で1903年度のノーベル化学賞を受賞しましたが、現在では、むしろ大気の温室効果の研究によって有名です。
1895年に、アレニュースは、大気中の二酸化炭素が2倍に増えたときに、大気の温室効果が強まって、地球の気温が約5℃も高くなることを示しました。
この結果を導くために、アレニュースは、月面から出ている赤外線の観測データを利用しました。
大気の温室効果を正しく評価するためには、大気に含まれている水蒸気や二酸化炭素がどのように赤外線を吸収するかを知る必要があります。
当時、赤外線の吸収の様子を実験室内で本格的に調べることは困難な状況でした。
米国のスミソニアン天文台長のサムエル.ラングレーが、満月から出て地球表面に届く赤外線を観測していましたが、本来月の表面の温度を知ることが目的でした。
満月から出て地球の表面に届く赤外線は、途中で地球大気を通過しますが、その際に大気中の水蒸気や二酸化炭素に吸収されています。
アレニュースは、「月面から出て地球大気を透過して地表面に到達する赤外線の観測データを利用すれば、地表面から出た赤外線が大気を通って宇宙へ出ていく状況を知ることができる」はずだと考えたのです。
アレニュースは、月の赤外線データを用いて温室効果を量的に計算し、二酸化炭素が2倍に増加したときに約5℃の温暖化が起こる、という結果を得ました。
現在の最も進んだ温暖化予測に比べると、アレニュースが求めた温暖化の程度はやや大き過ぎますが、地球大気に関する情報の少なかったころの予測結果としては、驚くべき正確さです。
人間活動の影響の指摘1930年代になって、人類が石炭や石油を燃やしているために、大気中の二酸化炭素が増加していることに注目したのは、英国の電力会社で蒸気発生装置の技術を担当していたジョージ.カレンダーです。
彼は、1938年の英国王立気象学会の席上で、1酸化炭素の人為的発生とその気温に対する影響」という論文を発表し、「石炭の大量燃焼のために、地球の気候は過去5年間に約0.25℃の温暖化を経験した」と主張しました。
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